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musica21 part 2

田中信昭先生

昨日の朝日新聞夕刊に、東京混声合唱団の演奏会の記事がありました。

震災後18日に開催された、同団第224回定期演奏会で、音楽監督の田中信昭先生が演奏に先立ってご挨拶なさったそうです。「演奏会を開くかどうかについて、真剣に悩みましたが、こんなにたくさんの方に来て頂いて...」と声をつまらせた、と。胸にこみ上げて来るものがありました。

田中信昭(しんしょう)先生には、学生時代「合唱」及び「重唱」をご指導頂きました。先生は、それは厳しい先生でした。「音楽家に遅刻という言葉はあってはなりません」と仰り、合唱の授業が始まると教室のドアの鍵を閉めてしまわれる。しかも一年で2回欠席すると、単位をとれない。合唱は必修科目ですから、皆必死で授業に駆け込んだものです。授業中も、大きな眼でギロリ、皆を観察していてちょっとでも気が抜けたそぶりを見せる学生がいると、「そこの貴方、今の所歌って見て下さい」と、静かな指名が来る。こわああい!今あんな風に、学生を震え上がらせることの出来る先生はいなくなりました。一方で、信昭先生はやる気のある学生に対しては、常に真摯に答えて下さっていました。

ある時、授業の後先生に呼び止められ、「君ちょっと来なさい」。私がどんなに緊張したかご想像下さい。「君、こういう発声練習やってごらん」合唱の授業なのに、どうして私の声の欠点がお分かりになたのでしょう。わあ、凄い!以後先生の授業ではますます気が抜けなくなったのでした。今でも先生の大きな眼と、すっと伸びた背筋を思い出すと、背中に電気が走るような気がします。

「音楽に正解はありません」これも、信昭先生から繰り返し教わったことです。プロとしての心構えと音楽に向き合う姿勢を、まさに「叩き込まれた」貴重な時間でした。

大学院の重唱の授業で、モンテヴェルディのマドリガルを勉強したのですが、「折角ここまで歌えるようになったのだから」と、NHKのプロデューサーに掛け合って下さって、録音放送の運びになったこともありました。思えば、あの時が私とモンテヴェルディのマドリガルとの初めての出会いでした。信昭(しんしょう)先生のお陰で、それは真に幸せな出会いとなりました。そして、あれから何十年!変わることなくそれは今に続いている訳でして。

その信昭先生が、上記の演奏会で「音楽家は音楽で貢献したい」と述べられたとありました。当時の劣等生は「はいっ!!先生」と背筋を伸ばしております。(伸ばしただけでは意味がありませんよ。と先生に言われそうですが)
by musicaventuno | 2011-03-29 20:58 | claudia